熊本義泰窯

絵画から天目、そして青磁へ。
独自の世界観を構築し、
唯一無二の“翠”を追求。

目次

絵画から焼きものへ、
天目の第一人者に師事。

鹿島市浜町に暮らす作陶家・熊本義泰さんを訪ねました。

高校時代に美術部に所属し、もともとは画家を目指していた熊本さんですが、偶然に訪れた大阪の美術館でやきものに心をつかまれ、その勢いのままに窯場見学へ。そして、そこでろくろを回している作陶家の姿を目にし、こういう暮らしをしながら一生を過ごしてもいいなと感じたそうです。

26歳のときに、やきもののまちとして知られる愛知県瀬戸市に移り、作陶の基礎を教育する施設で学び鍛えられます。そうして1972年、27歳で京都の木村盛和氏に師事。日本工芸会理事で、天目の第一人者ともいわれる木村氏の天目に惹かれ、陶房を訪れたことがきっかけでした。「訪問して先生に会えるというのは非常に珍しいことで、たまたまタイミングが合ったみたいで。色々とお話を伺い見学させていただいて帰ろうとしたときに、1年間くらいなら来てもいいよと言っていただいて嬉しかった」と当時をふり返って微笑む熊本さん。1週間後お世話になりますと連絡、木村盛和先生に師事することになりました。

「釉薬の調合パターンは無限にあって、先生は試作が大好きでしたね。試作のお手伝いを四六時中させてもらっていました。それで、弟子生活がちょうど1年ほどになったところで、あと10年やってみるか?と言われて(笑)」師匠の言葉を受け、内弟子生活を決意した熊本さんは、その後ますます技術を磨き、知識を深め、作陶の世界にのめり込んでいきました。「もう無我夢中で過ごしていましたが、5年位経ったとき先生から“独立したくなったら1年前には伝えてほしい”と言われて。それで独立を意識しはじめ、34歳で鹿島に帰ってきました」

展覧会での感想を機に決意、
独自で翠の青磁の追求へ。

独立した熊本さんは、日本伝統工芸展に天目を出品。しかし、そこで何度も同じ質問を受けることになります。「これは木村さんと関係ある方の作品ですか?と尋ねられて衝撃でした。木村先生のもとで修行を重ね、とても尊敬しているので、どうしても先生の天目の影響があります。それでやはり、私ならではの作風を築いていきたいと考え、独自の研究を始めました」

以前から青磁が好きだった熊本さんは、約千年前の中国宋時代につくられた耀州窯系の青磁を手本とし、独自の翠青磁を追求。「青磁の中でも、私は翠の青磁がやりたいと思った。透明の釉薬に鉄分を0.5から1%ほど添加して還元焔で焼成しますが、釉の成分や還元焔の状況によって変化するので上手くいかないことも多く、深みのある翠を出すのは非常に難しい。でもそこが面白さでもありますね」と語る熊本さん。

試行錯誤を重ねながら、胎土に土をのせて文様を描く「貼付文(はりつけもん)の翠青磁」へとたどり着き、熊本さんならではの作風を構築。釉薬が分厚く、釉薬の主張が強いいからこそ出せる翠の深みは何とも美しく、唯一無二です。

天目から青磁へ舵を切って以降、試行錯誤の4年間を経て、ついに紫陽花の文様を描いた翠青磁「青磁紫陽花文鉢」が日本伝統工芸展で入選。これまでに28回もの入選を果たし、個展も大阪や横浜のデパートをはじめ色々な場所で長年催されています。

まだ到達していないところが魅力、
翠青磁の可能性をこれからも。

熊本さんのご自宅にあるギャラリーには、いくつもの作品が展示されています(そのギャラリーでお話を伺いました!)。どれも緻密で美しく、木の温かみを感じる空間に翠がとても映えて、深みのある透明感が印象的です。

「若いときに色々なものを見て、引き出しを増やすことが大切。緊張感のある作品をつくっていきたいですね。いつもチャレンジです。修行時代に、何度も何度も挑戦する師の姿を見ているので、失敗しても“まぁこんなもんだろう”という感じですね(笑)」と楽しそうに語る熊本さん。実は熊本さんは、浜町の肥前浜宿エリアが国の「重要伝統的建造物群保存地区」として選定される際に奔走された人物でもあります。まちなみの保存と活用に取り組むNPO法人「肥前浜宿水とまちなみの会」の初代会長も担いながら、地域のために努力してこられました。現在でも地域に根ざした活動を続けられています。昨年は鹿島市の文化施設として親しまれる生涯学習センターエイブルにて、花器・茶器・大物などテーマを決めて1ヵ月ごとに展示していく「床の間コーナー」を展開。また、肥前浜宿の3月の「花と酒まつり」にあわせて実施される「窯出し展」では、熊本さん宅の奥の書斎にまで作品が並びます。(そのとき、椿など数種類ほどの生け花も、ご自身で手がけられるそうです!) 現在の楽しみのひとつは、地域サークルでのバドミントン。週3回の練習が待ち遠しいとのことで、若々しさの理由が分かります。今後について伺ったところ、「翠の青磁で国宝とされているものは、まだありません。ということは、最高水準に到達したものがないということでは?と思うんですね。だから、翠青磁の可能性ってスゴイ。これからもずっとチャレンジして追求していきたいです」と熊本さん。唯一無二の翠が、新たな美しさを描き出していきます。

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