受け継がれてきた酒造りに
自由な発想と好奇心を掛け合わせ、
飲み手も造り手もワクワクする1本を。
日本酒造りと地域のために尽力し、
長く親しまれる「矢野酒造」。
JR肥前鹿島駅から少し歩けば、長崎街道沿いにその建物が見えてきます。長い歴史が感じられて趣があり、母屋は国の有形文化財にも登録。1796年(寛政8年)創業の「矢野酒造」です。
創業当時は現在の場所ではなく能古見の方で酒造りを行っていたそうですが、そのときはまだ専業ではなかったとされていて、3代目の権右衛門さんの時代から酒造りを本業として進みはじめられたそうです。そして120年ほど前の明治期に現在の場所へ酒蔵を移し、いつの頃からか「矢野酒造」という名称で親しまれるように。また、酒造りだけでなく、上水道の敷設や消防団の創設など、地域のために尽力されたことでも知られています。

美術館での創作意欲をきっかけに、
五感を大切にした酒造りの道へ。
代表銘柄は「肥前蔵心」と「竹の園」で、2018年から蔵元杜氏として「矢野酒造」の造りを担っているのが、9代目の矢野元英さん。大学卒業後に酒造りの道へ入られたかと思いきや、なんと美術館で働いていたとのことで驚きです。
「次男ということもあって、継ぐことは特に意識していなかったのですが、美術館でアートに触れていると創作意欲が湧いてくるんですよね。それでどんどん“ものづくりがしたい”という気持ちが抑えられなくなって。鹿島に戻り、お酒を通してものづくりに打ち込もうと思いました」と語る矢野さん。その決意後、東京・広島・福岡で酒造りを学び、鹿島へ戻ってきました。

「“健全な発酵のために環境を整える”というのが造り手としての大きな役割ですが、これが予想通りにならないんですよね(笑)。色々と考え抜いて計算し尽くしても、酵母が自由に動いてくれた方が上手く進むこともありますし。大変だけど、そこが面白い。大変なことと面白いことは同じですね」酵母の働き方や発酵の具合は数値で管理できるようになってきていますが、タンクの泡をよく観察する・香りを嗅ぐ・蒸し米を触って確認するなど、「五感を信じて五感で発酵の状態を見極めること」を大切にされているそうです。
ワクワクな“冒険酒”が続々と誕生!
蔵全体で造りを楽しみ、新たな1本へ。
「“安全でキレイなお酒を造る”という基本があって、その基本型から逸脱しなければ、フットワーク軽く何でもチャレンジしていきたいですね。できるだけ蔵の微生物を活かした造りもしていきたいので、現在では4割が山廃・生酛です。しっかりとしたコンセプトが感じられる1本を生み出せるように意識しています」そう語る通り、矢野さんの酒造りはとても自由でチャレンジングです。2023年には、山廃でにごり生酒の貴醸酒(水の代わりに日本酒で仕込む日本酒)を「矢野KJS」と名付け、4号瓶でわずか500本ほど(激レア!)販売。2025年は、しょっぱいお酒「ソルティパンチ」を構想中ということで、非常に興味深いです!さらに、“カレーと合うお酒”の開発にも意欲を燃やされていて、一筋縄ではいかない(?)個性的な1本がこれからも続々と誕生の予感がします。

また、矢野酒造で酒造りに携わる蔵人さんたちが、1人1本ずつ“自分自身が飲んでみたいお酒を造ってみる”という試みも展開予定だそうです。「すごく寒い環境での作業が多くて大変だからこそ、造り手も楽しむことが大切だと思います。蔵人全員が健康で楽しくワクワクできるような働き方の構築を目指していますし、好奇心を大事にしていきたいですね。そして、これからの造りの担い手や日本酒ファンの方を増やしていくためにも、酒造り体験の機会をつくっていけたらと考えています。日本酒の造り方や味、蔵の雰囲気を体感していただき、興味をもってもらえたら嬉しいです」
丁寧で地道な酒造り、安全でキレイな酒造りをベースに、自由な発想とチャレンジ精神と好奇心を掛け合わせ、飲み手も造り手もワクワクする1本が生み出されていきます。
