フォロワー総数1万人超え!
老舗の伝統と斬新なアイデアの
融合で、広がっていく可能性。
代々伝わる製法で100年以上。
門前商店街の老舗せんべい店
祐徳稲荷神社からすぐの門前商店街、そこに大正元年(1912年)創業の老舗せんべい店があります。代々続く昔ながらの製法を守り、1枚ずつ手づくりで丁寧に焼き上げ、100年以上にわたってせんべいづくりと向き合う「井手商店」です。

お店を訪ねていくと、4代目として店頭に立つ鶴洋さんの姿を発見。以前は異なる分野の職に就き、お店を継ぐことは考えていなかったそうですが、「もっと地元に溶け込んで暮らしていきたい、それならば継ぐべきではないのか」と思うようになり、2015年から店頭で接客を始められたとのこと。「たくさんの方々とお話しできることが嬉しいです。自分の努力次第、頑張り次第で結果につながっていくところがやりがいですね」と鶴さん。店舗運営を任されるようになり、専門家のアドバイスを受けながら、店舗レイアウトの見直しを実施。手づくりせんべいを製造する様子が来店客からも見えるようにしたり、せんべいの保存容器の役割を果たすブリキ缶や昭和初期のレジをディスプレイとして活用したりするなど、井手商店さんの魅力がもっと体感できるような工夫を重ねてきました。
鶴さんの接客風景を撮影する際にも、一人ひとりとコミュニケーションしながら温かなやりとりをされていて、商店街を通る人が誰もいなくなるくらいの時間まで店頭に立ち続けている姿が印象的でした。
アニメとのコラボや令和せんべいなど、
斬新な取り組みを次々と。

様々な味わいのせんべいがあり、看板商品は「生姜せんべい」。1枚ずつ手づくりで丁寧に焼き上げられていて、素材の風味が本当に豊かな逸品です。「父が製造を担っていて、代々伝わる製法で仕上げていきます。生姜と砂糖を目分量で混ぜるのですが、いつでも常に美味しくてスゴいなと思っています。ずっと焼き続けて、継続しているところを尊敬していますね」
3代目のお父様への想いを語る鶴さんも、自身のアイデアや特技を活かして様々なことに取り組んでいます。まずは、SNSでの積極的な情報発信。色々なSNSでのフォロワーをすべて合わせると、なんとフォロワー総数1万人以上!19万回ほど再生される動画もあるのだとか。そして約4年前には、佐賀県を舞台にした人気アニメとのコラボに動き、鶴さんの行動力と熱意で実現。コラボが発表された瞬間にファンが来店するほどの反響があり、1日の来店客数が通常の4倍近くになったそうです。
さらに、令和を迎えるにあたり、「令和せんべいをつくろう」と思いつき、ものすごくシンプルに「令和」と入ったせんべいを考案。カウントダウンのときに無料で1,000枚を配り、メディアにも取り上げられて話題となりました。「もともと絵を描くのが好きなので、令和せんべいのデザインもそうですし、イラストクッキーなどで自分の好きなことを活かせるのが嬉しく、やりがいにもつながっていますね。自分自身の好きなスタイルで自由にやらせてもらっていて感謝しています」と微笑む鶴さんでした。

受け継いできたものを軸とし、
老舗の在り方の可能性を広げていく。
店頭に並んでいるのは、せんべいだけではありません。農家の方々の役に立ちたいという気持ちから、みかんや玉ねぎの仕入れ・販売も5年ほど前に始められ、SNSを通じての申し込みにも対応しているとのこと。最初は慣れないながらも試行錯誤で工夫を重ね、最近では特にみかん販売が浸透してきたという実感があるそうです。
お客様に喜んでもらうため、お店でワクワクしてもらうため、鶴さんの構想は広がっていきます。店頭のデジタルサイネージとSNSを連動させることによって投稿したものを映し出せるようにする計画、さらにはAIロボットを搭載して来店客とコミュニケーションができる自販機の設置など、アイデアが次々と湧き出てきます。
そしてもちろん、その軸となるのは、代々受け継がれて親しまれてきた手づくりせんべいです。「安定的に焼き続けるためにも人材が必要不可欠で、お店で働いてくれている人たちの存在が大切ですね。だからこそ、少しでも負担を軽減できるよう、機械化できるところは機械化していくべきだと思っています」そう話す通り、せんべいの乾燥に時間がかかりすぎるという深刻な課題(ガスでの乾燥は完全に乾燥するまでに24時間かかり、夜中も定期的に状態確認をしなければならない)を解決するため、補助金を活用した乾燥機の導入を試みました。すると乾燥時間が3分の1の8時間まで短縮され、生産効率が大きく向上したそうです。

これからのことについて、さらに続きます。
「やはり門前商店街を盛り上げていくために少しでもお役に立ちたいという気持ちがあります。お店それぞれの個性や魅力をもっと出して、より一致団結できるように動いていきたいです。老舗を継いでいくことも重要ですが、若い世代の方々に新しいお店を開いてもらえるような環境づくりも大切だと感じています」人と地域を想う気持ちが、原動力。老舗の在り方の可能性を広げながら、構想の実現を加速させていきます。