神社の境内だけでなく、
山道などの周辺環境まで整備。
地域全体で守りつなぐ大切な場所
山の神・酒造の神が祀られ
伝説も残る「山祇神社」

日本三大稲荷のひとつといわれ、年間300万人以上もの参拝者が訪れる祐徳稲荷神社。その祐徳稲荷神社の横を流れる錦波(きんぱ)川(神社近くの浜川のことを錦波川とも呼びます!)を眺めながら、もっと奥へ。するとそこには、知る人ぞ知る神社があります。山の神・酒造の神「大山祇神」が祀られる「山祇神社」です。
「1148年の創建とされていて、源頼朝と義経の叔父にあたる源為朝の伝説が残る場所でもあります。小さな頃はすぐ近くに住んでいたので、朝の6時に参拝するというのをけっこうしていましたね」と話すのは、この下古枝エリアの区長であり(取材当時)、祐徳稲荷神社責任役員も担う林圭一郎さん。幼少期から身近な存在だった山祇神社の清掃や環境整備に取り組まれています。「8月にはお祭りが開催されて、露店がたくさん並んで賑わっていました」と懐かしむ林さん。境内の狛牛には、弓の名手として名を馳せた為朝が龍の鱗を持ち帰るときに、その鱗を乗せて運んだという説があると教えてくれました。為朝が馬を洗っていた馬洗い場や、居宅にしていた「手突城」も近くにあったといわれているそうで、興味深いです。

「あとはずっと気になっているのが、東経(本初子午線を0度とし、そこから赤道に沿って東へ180度までの経度)のことですね。福岡県の宗像に、世界遺産の沖ノ島がありますよね。その沖ノ島と祐徳稲荷神社、そして山祇神社の東経がほぼ一致していて同じライン上に並び一直線で結べるので、何かつながりがあるのではないか、ご縁があるのではないか・・・と感じているところです」と微笑みます。地図位置をもとに“なぜその場所にあるのか”まで考察し、背景を広げていく。林さんの様々な視点から、山祇神社という存在への深い想いが伝わってきます。

有志で山道整備をスタート。
里山未来拠点形成支援事業も後押し
山祇神社の周りには、かつて農産物を運んでいたとされる通り道がありますが、少し前までは木が倒れていたり道が険しく歩きにくかったりして利用できる状態ではありませんでした。そこを何とかしたいと考えた林さんは、周囲に声をかけ、有志メンバーで木の伐採や葉・小石などの除去、地盤改良に取り組む山道整備事業を始めます。また、環境省の里山未来拠点形成支援事業の採択を受けられたことも後押しとなりました。「有明海・肥前鹿島干潟の保全に取り組むラムサール条約推進室の方と話しをする機会があり、山祇神社の周辺を整備していきたいという考えを伝えたところ、里山未来拠点形成支援事業のことを教えていただきました。肥前鹿島がその事業に採択されて、山道整備についても2022年から2025年の3年間バックアップしていただけることになり、とてもありがたかったですね」とふり返ります。

さらにこの取り組みには、“共存”への願いも込められていました。「里山の環境を整えていくことで、猪などの動物と人のエリアの棲み分けができるようになり、農作物への被害が減るといったことにもつなげられると考えています」と語る林さんの見つめる先には、里山本来の姿が映し出されています。
大切な場所を守りつなぐため、
活動の定着を目指し、地域全体へ。

有志メンバーによる地道な活動で、山祇神社の境内と周辺の状態は美しく整ってきています。清掃で拾い集めた落ち葉を堆肥づくりに活用するなど、その後の循環にもつなげられているそうです。
「これまでは不定期で実施してきましたが、これを定期的なものにしていこうとする動きをつくりたい。現在の活動を、その原動力にしていきたいです。里山未来拠点形成支援事業の期間が終わってからも、もちろん続けていきます。そして、やはり地域全体で守っていくことが大切だと感じますので、地域の方々に参加していただきながら広げていきたいですね。この活動が定着するまでには、時間がかかるかもしれません。でも小さな一歩でもいいから、動いていかないといけない」
澄んだ空気に潤いの緑、穏やかな静寂。祐徳稲荷神社からほど近く、知る人ぞ知る山祇神社。その大切な場所をずっと守りつないでいくため、小さくても強い一歩が積み重なり続けています。