漬物文化の担い手として、
新たな可能性を追求。
100年以上の歳月を経て、また一歩。
100年以上続く老舗漬物屋、
巨大な蔵の中は漬物の宝庫。

JR肥前浜駅を出て少し歩いたところ、右側にある秘密基地のような建物が気になったら、きっとそれは「漬蔵たぞう(有限会社田雑商店)」です。明治初期創業の100年以上続く老舗漬物屋で、昔ながらの製法を大切に守り、漬物づくりはすべて手しごと。もともとは肥前浜宿の通称・酒蔵通りで営まれていましたが、昭和2年頃に現在の場所へ。店舗を兼ねた巨大な蔵の中に入ると、100年以上前からの看板商品「田舎ならづけ」をはじめ、鹿島産のたまねぎでつくる奈良漬や、健康食材としても注目されるキクイモの粕漬など様々な種類が並んでいて、日常では目にすることのない漬物ワールドに引きこまれます。
「旬の素材、そしてできるかぎり佐賀県産・九州産のものを選び、佐賀県内の酒蔵さんの良質な酒粕を使って、じっくり長く常温熟成を行います。長期発酵でつくることで、味に深みが出るんです。漬物の本来の美味しさを知ってもらいたいと思って続けています」と語るのは、代表で4代目の田雑継市郎さん。23歳から漬物づくりの道に入り、数年間は他県の企業で修行を重ね、27歳のときに戻ってきました。
同業者からも頼られる漬物博士!
見抜く力と皮膚感覚を磨いた先に

漬物づくりに没頭し、湧き出るような探究心で漬物づくりを極めていく田雑さんは、まさに漬物博士!日本では縄文時代にすでに野菜の皮が塩漬けにされていたといわれるほど歴史のある漬物づくり(確かな記録として木簡で発見されている最も古いものは奈良時代のウリの塩漬け)ですが、漬物に関する詳細なデータや研究者が非常に少ないこともあり、同業者からの相談もよく受けるそうです。
「料理をするときに、こうしたら美味しいはず、こうなったら美味しくなるのではと思いますよね。漬物づくりも同じで、そういう感性が大事だと考えています。例えば素材の状態を見て、もっと塩を強くした方がよさそうだなとか・・・しっかり熟成されていなければ酵素が残って野菜が溶けて歯ごたえがなくなるので、この酒粕の状態なら大丈夫だなとか・・・見抜く力を鍛えないといけないですね。もちろん指先の感触、皮膚感覚で判断できることも大事です」と田雑さん。誰かのためにつくる料理と同じで、その漬物を手にとる人たちの嬉しそうな表情を思い浮かべているのだろうと伝わってきます。

“こんなに美味しかったんだ!”を
届けながら、漬物文化を守り継ぐ。
「漬蔵たぞう」では、なんと90歳の方も現役で活躍されています(勤続70年だそうです!)。ずっと長く働いているスタッフさんも多い中、やはり課題は人材の確保とのこと。「冬の現場はすごく寒いのですが、自然な状態で熟成させた漬物が一番美味しいので、室内を暖かくできない。冷たさを感じながらの作業になるため、特に冬は働くのが大変な環境かもしれません。ただ、それでもできるかぎり漬物づくりの面白さを感じてもらえるように尽力したいですし、漬物づくりを伝えていきたいですね」と語ります。
これまでになかった漬物を生み出し、“美味しい”を目指す田雑さん。「新しい漬物というのは本当に無数に考えられるもので、現時点でも100種類以上のバリエーションがあると思います。世界的にみても、そんな食べものはなかなか存在しないのではないでしょうか。一人でも多くの方に、“漬物ってこんなに美味しかったんだ!”と思っていただけるように取り組んでいきたい。漬物文化を守っていきたいですね」
そうして日々、漬物研究と漬物づくりに打ち込む田雑さんに趣味を尋ねたところ、「趣味も漬物です(笑)」と満面の笑み!その熱い想いと自由な発想から、漬物の新しい可能性がどんどん広がっていきます。