大切にされてきたものを再生し、
新たな歳月をもたらす匠。
価値を刻みながら、時代の変化に対応。
卓越した技術を継ぐ貴重な表具店、
作業中に先人の面影と出会うことも。

鹿島市の高津原に、明治36年から卓越した技術を継承し続ける1軒があります。表具・表装一筋で歴史を重ねてきた「小笠原表具店」です。表具とは主にふすま・障子の張り替え、表装とは主に掛軸・額・屏風の仕立てやし直しのこと。現在は、3代目の小笠原立雨さんと奥様の恭子さん、そして4代目となる長男の正了さんで連携し、数々の表具・表装を手がけられています。立雨さんと正了さんともに「一級表具技能士」「一級壁装技能士」の資格を持ち、立雨さんは厚生労働省から「ものづくりマイスター」として認定されているほどの匠です。
お寺の涅槃図や由緒あるお屋敷のふすまの修復など、長い歳月が経っているもの、取り扱いの難しい特殊なものでも見事に蘇らせる小笠原さん。特に大型サイズの表装は複数人のチーム体制でなければ取り組みづらいので、小笠原表具店さんのように請け負える存在は非常に貴重です。
また、家紋を貼って仕上げる唯一無二のオリジナルふすまも展開されています。このオリジナルふすまは、メーカーにあらかじめ紙の質や家紋の大きさ、さらに配置まで細やかに依頼し、その内容に基づいてできあがってきた襖紙を貼っていくのですが、下張りに非常に手間がかかるので、確かな技術があるからこそできるものです。
「様々な依頼をいただきますが、額の下張りなどを剥いでひっくり返したときに、初代や2代目の名前が入っているのを見つけることもあり、つながりを感じます。どのような技が使われているのだろうと気になりますし、時代を超えて教えてもらっている感覚にもなりますね」と語る正了さん。数十年もの歳月を経て先人たちの技術や想いの痕跡と巡り会えることはとても素敵ですし、そういった大切なものがしっかりと受け継がれてきた証でもあります。

質の違いで、数年後に分かる答え。
伝えていくために、できること。
時代の流れとともに、表具・表装への意識も大きく変化してきています。「例えばお家の中にずっと昔から掛軸や額が飾ってあったとしても、それを修復しながら飾り続けるということが少なくなっていますね。“とても古いので修復できない”と思われていたり、“修復の依頼は敷居が高い、修復費用もおそらく高いのではないか”と思われていたりするようですが、私たちはできるだけお客様のご予算や想いにお応えできるよう工夫し、御見積をさせていただきます。また、近頃では襖紙や障子紙に関しても簡易的な紙が使われる傾向にあり、DIYの動画もたくさん出ていますが、長くキレイに繰り返し貼り替えて使える良さは日本独特のもので、紙や貼り方によって仕上がりが変わってきます。そしてその違いは、数年後に出てくることが多いですね」と恭子さん。「ただ貼り替えればいいというわけではなく、長い歳月をかけて受け継がれてきた決まりがあります。そういった先人たちの知恵を暮らしに活かしていくことが大切で、その重要性をきちんとお伝えしていく役割も担っていると感じています」

そう話してくださった通り、端材や古布を活用した「タペストリーワークショップ」や「絵はがき掛けワークショップ」をはじめ、たくさんの方々に表具・表装を知ってもらえるきっかけとなるような体験も企画し、伝統技術やものづくりに関係するイベントの開催時などに実施されているそうです。
時代の流れの中で、地域の動きの中で、
確かな価値をこれからも。
「掛軸や額の新しい依頼をいただいたときは、表装の裂地(きれじ)の質・色・柄選びも重要で、それらによって印象が大きく変わります。本紙の良さが引き立つ表装をお客様と話し合いながら選び出し、ときには飾られる場所の壁に合わせて選ぶこともありますね。一番似合う着物を着てもらいたい!というような気持ちです」と微笑む恭子さん。そして、その恭子さんに続き、「キレイになってよかった、またあなたに頼みたいと言っていただけることが喜びです。依頼してくださる方のお気持ちや考えに寄り添って、ずっと強くつながっていただけるように心がけています」と力強く語る正了さん。リピーターのお客様が多いので自然と紹介も増え、小笠原表具店さんが手がけられたものを見かけた方が「これはどこに頼んだの?」と聞いて広がることもあるそうです。

立雨さん・恭子さん・正了さん3人の圧倒的なチームワークと技術力で、新たな依頼に次々と取り組んでいきます。昨年の2024年には、新しい建物や新社屋の完成に合わせて、掛軸関連の依頼が増えたとのこと。「鹿島での様々な文化的な動きに携わらせていただけて本当にありがたいです。これからは、技術力の価値というのを、インターネットも活用しながら高めていきたいと考えています」
時代の流れの中で、地域の動きの中で、確かなものが受け継がれていきます。